生卵を割るのに失敗した。ただそれだけの話

更新: 2024-08-08  投稿:
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以下の文章は、

殻を割るのを失敗して、生卵が排水溝に吸い込まれた

とだけ書けば終わる話を、詳細に1000字以上書いて1つの記事にしたものです。


冷蔵庫から、生卵を1つ取り出す。

いつものよりちょっと良い卵だ。ここのところ、卵の値段が上がっている。以前はスーパーで10個入りで120円くらいだったのが、最近は300円くらい当たり前だ。近所には地元生産のランニングエッグが売られているところがあり、値段は以前と変わらず430円くらいのまま。相対的にこっちがそれほど高く感じなくなってきたこともあって、たまにはいいかと買ってみた卵。

そんな高級な卵の1つを手に持つ。

今から作るのは目玉焼きだ。カレーライスの上に乗せて食べようと思う。すでにフライパンは火にかけてあり、油も引いてある。ここに生卵を入れて、ふたをしてしばらくすれば、目玉焼きが出来上がる。

手に持った生卵を、フライパンのふちを使って割ろうとする。しかし、手を止める。

いや、フライパンは熱いはず。もしかしたら卵を割るとき、熱々のフライパンに手が当たってやけどをしてしまうかもしれない。一瞬なら多分大丈夫だろうけど、そのリスクを背負う必要はない。じゃあ、シンクのふちで卵を割ろう。

シンクのふちに、卵の殻をぶつける。

その一瞬、力を入れすぎた。いつもは優しく何回かトントンと叩いて割るが、シンクのふちは丸まっているので、割れにくいと思い、いつもより力強くぶつけたのだ。しかし、力の調整を見誤った。

卵はカラから飛び出し、シンクの壁を流れ落ちる。底にたどり着いた卵は、その勢いを失うことなく、スルスルと排水溝に吸い込まれる。

「あ」

一瞬、シンクを流れる卵を手ですくおうとした。そのとき僕の脳裏には、かつてテレビかYouTubeかで見た、ジョン・F・ケネディが襲撃されたときの映像がよぎった。飛び散ったケネディの骨や脳みそを、ケネディ夫人がかき集めようとするシーンだ。自分が卵をすくおうとしたのも、同じなのかもしれない。人間、パニックになると、何をするか分からないな。

いずれにしても、生卵はあっという間に排水溝に吸い込まれた。手ですくおうとしても間に合わなかっただろう。もしすくったとしても、汚いので食べない方がいいが。

僕はただただ、排水溝に吸い込まれていく生卵を見つめた。

「はあ」とため息をつく。むなしくて、悲しくて、やりどころのない気持ち。そして、シンクのふちを使う選択をした後悔が襲う。

その後は、無事に目玉焼きを作るのに成功した。もう1つ卵を消費するのはもったいない気もしたが、目玉焼きを食べたいモードに入っている。今度はお皿のふちを使って卵を割った。

おわりに

排水溝に流れてしまった卵も、これで供養できたでしょうか。

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