心理職の前にエンジニアをやっておいてよかったこと10選

更新: 2026-03-29  投稿:
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約6年前の記事で、エンジニアから転職して心理士を目指します、ということを書きました。

近況報告 機械から心理へのキャリアチェンジ
2019-10-28

すでに心理職として働き始めており、1年が経過しようとしています。

今回は、以前のエンジニア職を含めて、これまでの様々な経験を積んできたことが、心理職にどのように生きているかについて書こうと思います。

やたら長い注意書き

  • タイトルは「エンジニアをやって」となっていますが、前職でエンジニアとして会社員をしていた経験を中心にしながらも、海外での生活、今までに人と話した経験、趣味を通して学んだことなどを含みます。心理学の勉強”以外”のこれまでのすべての経験のうち、今生きていること、という内容になっています。
  • ここに書いてあることが正解だとか、良い考え方だとは、自分でも思っていません。あくまで、心理職1年目が終わった現在地を記しているものです。10年後、20年後に自分自身で読み返したら「あの頃はそのレベルだったのか。まだまだ甘いな」と思うでしょう。そういったことも想定して、今自分がどう考えているかの記録となっています。

(1) 問題解決の手法や技法が身についている

エンジニアは問題解決が得意です。現状の課題を把握して、どのようなアプローチが適切かを考え、図示して整理し、計画を立て、1つ1つステップを踏んで取り組むことで、解決に向かうことができます。

具体的によく使われる方法として、フローチャート、フィッシュボーンといった問題を見えるかする手法があります。またそういった名前がついていませんが、Excel で表を使って整理するとき、列・行に項目を過不足なく書ける、という力は基本となっていると思っています。

そして、その状況にあった手法を適切に使い分けたり、その場で組み合わせて新しく作ることができます。

心理学に話を移すと、エンジニアの問題解決手法に近いものとして、ワークシートを使った取り組みがあります。有名なものもたくさんあり、僕もよく使っています。

しかし同時に、既存のワークシートは、型が決まっていることによる息苦しさも持ち合わせています。

エンジニアは、その場その状況に最適な「ワークシート」を即席で作ることが求められます。それと比べると、既存のワークシートを使うのは最適なやり方ではないように感じてしまいます。もちろん既存のワークシートもよくできているので、最低でも70点くらいは取れるだろうけど、90点を超えるような高得点は取れないという感覚があります。

既存のワークシートは、手法が決まっていることによる分かりやすさや、他人との共有のしやすさがメリットとしてあるので、他の人と相談しながら書くような場面ではとても有効です。しかし、自分の頭の中で整理するときにはあんまり使ってないなという印象です。

(2) 現状把握を丁寧に行える

エンジニアは問題解決ばかりを先に行って、その背景や人の気持ちをないがしろにしている、と思われがちです。しかし自分は必ずしもそうではないと思っています。

エンジニアは問題解決を行う前に、徹底的に現状把握を行います。実は現状把握というのは、問題解決と比べても圧倒的に大切なステップです。現状把握が正しくできれば、どうやって問題を解決したらいいかかは自然と見えてきます。

では、現状把握はどうやって行うか。よくあるのは「三現主義」という考え方です。現場に足を運び、現物を見て触り、現実を認識します。機械エンジニアであれば、工場に何度も赴き、作業している方に話を聞きます。ソフトエンジニアであれば、ユーザーがどのような状況で使うかを実際に確かめ、体験します。そうやって集めた断片的な情報を組み合わせて、1つにまとめ上げます。

問題解決を行う前のこの段階を、とても大切にしています。

さきほどはワークシートを使う場面を例に挙げましたが、実際にワークシートを使う前の段階として、じゃあこの人にはどの心理療法がいいだろうか? 目の前の状況を整理すれば、あとは自力でできそうだろうか、それとも過去から振り返って人生の棚卸しのような作業が必要だろうか。そういった判断をするためには、どれくらいの準備が必要かを考えるとき、自分はエンジニアでいうところの現状把握を行う徹底さを参考にしています。

(3) ほう・れん・そうができる

心理学でよくある話として、母子並行面接を行うと、母と子の間で起こっている課題が、母担当心理士と子担当心理士の間でも同じ課題として発生する、ということがあります。そして、両心理士が課題について話し合うなどして解決がされると、母と子の間でも課題が解決に向かう、とされています。このような相似の構造があるという理論について、個人的にも完全に同意しています。

しかしながら、自分が母担当心理士だとして、子担当者との間に違和感があったとしましょう。このとき、母子との相似な関係性を認識して「子担当心理士と話し合いをすれば、母子の関係性も同じように進展するだろう」と考えた上で、子担当心理士に相談を持ち掛けるでしょうか? 僕の答えは「No」です。もちろん、実際にはそうするべきです。自分が子担当心理士に抱いている感情を認識しつつ(1人称視点)、全体像を把握して(3人称視点)、2つの視点を持ちながら物事を進められるのを目指さないといけません。

でも自分はまだ1年目。そこまではできない前提の戦い方が必要だと思います。そして、そこまでできなくても、結果として同じ行動が起こせればいいとも思っています。

ここで、ほう・れん・そう がちゃんとできることが生きてくると思います。社会人1年目で習う「困ったらすぐに相談しよう」です。子担当心理士とうまくいってないなーと思ったら、火種が大きくなる前に、すぐに話をします。正直に、オープンな態度で、この話し合いが必要だと伝えつつ、でもトゲトゲしくならないように思っていることを伝えます。

結果的に、2つの視点を持っている場合と比べて、自分が起こす行動としては同じところに行きつくと思います。上記のような理論があることは、そのあとで理解すればよいと思います。

うまくいっていないなーという感覚として知覚されるのが最初であり、実は材料としてはそれだけで十分行動につながるのではないでしょうか。

一緒に仕事をする人との関係性でちょっと違和感があったらすぐに相談する、という習慣は、社会人1年目の経験の中で感覚的に身に付いたものだと思っています。

(4) 会社組織の体系が分かる

課長と部長どっちが上?とか、管理職って何?とか、主査って役職はマネージャーとプレイヤーのどっち?とか、エンジニアに限らず、それなりに人数の多い組織で働いたことがあれば当たり前として知っていることがあります。これを、当たり前のように知っているのは、意外と心理職の技能として大きいと思っています。

会社員の相談を受けて、社内での人間関係を聞くときには、組織図を書きながら整理するようにしています(少なくとも頭の中には書きます。実際に紙に書くこともあります)。組織図があるだけで、様々な力関係が見える化されます。「この人に言われたら、この人は言い返せないよね」とか「この人に協力してほしかったら、ここに話を通すと早いと思いますよ」とか「このピラミッドの外部にいるこの人には相談できないんですか?」みたいなことを自然と普通に言えるのは、実は信頼を獲得する上でかなり重要だと思っています。

(5) 常に効率化を考える

エンジニア職は効率化を重視し、心理職は効率を重視しない。よって両者が行っていることは正反対だ。というように見えるかもしれません。しかし僕は、エンジニア的な効率化を心理職に持ち込むことは重要だと思っています。というか、職業病として無意識にそうしています。

たしかに、心理職の仕事の中には、効率とは無縁の「聖域」が存在します。

無駄に見える遠回りこそが、実は人の心を豊かにする、ということはよくあります。カウンセリングだって、必ずしも早く終わることが正しいことだとは思っていません。60分の枠があるなら、早く話が終わったからと言って40分で切り上げることが必ずしも良いわけではありませんし、100回カウンセリングが必要なら、それは必要なことなのだと思います。

でも、効率とは無縁の「聖域」を守るためには、それ以外の業務を効率的にしないといけない、と僕は思っています。

例えば、見逃してはいけない大事なメールが届く中で、しょーもないメールもたくさん来ていて、処理をどうするか。じゃあ、GTDの手法を使って整理してみよう。

他にも、心理検査がたくさんあって、それぞれ所見を書くのにかかる時間も違う。納期管理をどうしようか。よし、カンバン方式を使ってみよう。試してみてうまくいかないときは、すぐに修正して改善しよう。

そういうことを常に考えるときには、心理職の仕事であっても、エンジニア脳で使っています。

(6) 人前で話すのに慣れている

自分のエンジニア職は、そこそこ大きくて関連会社がいくつもあるような企業で経験を積みました。

エンジニアの仕事の中で、本社で3番目くらいに偉い人の前で発表をしたことがあります。

もちろん下っ端なので大した発表ではありませんでしたが、めっちゃ準備をしてちゃんとこなすことができたのは、とても大きな経験でした。終わった後、その人からは「よく状況が分かったよ。ありがとう」と言ってもらえました(もちろん本心かは分からないです。めっちゃ偉い人って、下っ端には怒りませんから。実は僕の上司が怒られてたのかも)

それ以外にも、そこそこ大人数の会議で話をすることもよくありました。

そういった経験をしたので、普通に人前で話す程度であれば、もう緊張することはないと思います。緊張しそうだとしても、どれくらい準備すればよいかも分かるので安心感があります。

これからは、心理学の世界でトップ50人くらいに入る偉い人の前で話すか、あとは何百人規模の講演をするか、それくらい未知の領域じゃないと緊張しないだろうと思います。

(7) すごい会社で働いている人でも、怖気づかない

面談などでは、有名な企業で働いている方を相手にすることがあります。もし自分が学生からいきなり心理職をやっていたら「〇〇で働いてる人なんだ! すげー!」と思ってしまっていたでしょう。そのような不用意に持ち上げてしまうことは、フラットな関係性を築く上ではあまりプラスに働かないだろうと思います。

自分もそこそこ大きい企業で仕事をしていた経験があるおかげで、そういった方を目の前にしても平常心でいられます。口には出さないけど、内心は「どうも。お疲れ様です!」って気持ちです。もちろん「すごい」とは思いますし、それまでに大変な努力をされてきたことはリスペクトします。しかしそれは、自分と比較しての相対的な「すごい」ではなく、絶対的な「すごい」です。変に尊敬しすぎることはなく、冷静に見れると思います。

(8) コスト意識が身についている

エンジニアとして人件費を計算するときは、1時間2,400円で計算します。作業の効率化によって月4時間の工数を削減出来たら、9,600円、約1万円の削減となるわけです。

では、自分がそれくらいの働きはできているのか。常に頭の中で計算をしています。

もちろん心理の仕事は成果が分かりにくいので、感覚的なものにはなります。でも実は、成果が分かりにくいのはエンジニアでも同じです。下っ端の作業は最終出力じゃないので、自分の仕事が具体的にいくらの価値があるのかは分かりづらいです。例えば会議を2時間するなら、社長から見て4,800円払ってでもやってほしいか? もし足りないなら、プラスアルファして価値を作らないといけないと思っています(4,800円払って4,800円の成果では、社長の手元にお金が残らない)。そういった考えは、前のエンジニア職でも、今の心理職でも変わりません。

目に見えない成果を数値化するのはファジーな領域です。でも、感覚と数字を結びつけるのは理系の強みだと思っています。

もちろん、そんなこと考えなくていいのが心理職の良さでもあります。でも、知らないのと、知ったうえで気にしなくていい(甘えさせてもらう)のでは違うと思います。自分は後者でありたいです。

またこういった考え方は、社会人1年目で教わる「2つ上の立場から考えなさい」という視点がベースになっています。

(9) お金に対するマインドセットが違う

正直言って、心理職って儲からないですよね。

前職の時にも給料が高かったわけではありませんが、同年代の心理職の平均的な収入よりは多かったですし、忙しかったのでお金を使う暇もなかったし、独身貴族ですし、自由に使えるお金はそれなりに貯まっていました。じゃあ、このお金をどう活用しようかと考えるわけで、10年前から積み立てNISAをやっていたり、たまに出かけるときには贅沢にお金を使ってみたりと、日常から一歩はみ出すことにつながりました。それが結果として幅広い経験を積むことになり、いろいろな意味で「投資」になったと思っています。もちろん、当時は打算的にやっていたわけではありませんが、今思うと使ったお金以上の経験をゲットできたと思います。

これって実は社会人であれば当たり前にやっている人もそれなりにいると思うので、特別なことではないと思っています。

逆にお金に困る経験もしています。大学は1人暮らしだったのでかなり節約していましたし、海外でバックパッカーみたいなこともやっていたので、貧乏でも明るく生活したり、貧乏なりの考え方なども身についているつもりです。

社会に出てすぐに心理の仕事をやって生活費だけで精一杯、という場合と比べて、お金に対するマインドセットはかなり違うものになっているのかなと思います。

(10) 勉強方法が身についている

エンジニアの方が、本やネットの情報など独学で勉強するための材料がとても充実していると思っています。

心理の場合、例えばカウンセリングの記録や心理検査の結果といった情報は、倫理上簡単に公開することができません。もちろんネットに情報は書けませんし、本もかなり限られます。数少ない表に出来る情報もも、かなり抽象的な話や一般論に限られてしまうため、分かる人には分かるけど、分からない人には分からないものになりやすいです。

もちろんエンジニアにおいても、企業のデータベースといった情報を公開することはできません。しかし、例えば個人で開発をしているような場合は、その人の判断で公開することができます。具体的なノウハウをオープンにしやすいです。

また、Zenn といった有名サイトがあるなど、エンジニアの中で知見を共有する文化があると思います。

結果として、勉強方法という意味で言うと、エンジニアの方が一歩進んでいるのかなという印象があります。心理は勉強がしにくい分、勉強方法のノウハウもたまりにくいように感じます。

もちろん心理職にしかできない勉強方法が多いのでそれをベースにしつつ、気持ちとしてはエンジニアのようなスピード感や取り組み方をしたい、と思っています。

おわりに

2015年の僕は、以前運営していたホームページ(現在は閉鎖)に、こう書いていました。

別に自分はカウンセラーになるつもりはないですし(というか多分向いてない)、特に詳しいわけではありませんが、「カウンセリングが上手かどうか」というのは結構人生経験の豊富さによるところが大きいような感じがします。人生経験の浅い人が、相手の気持ちに寄り添うのは難しいような気がする…。でも、「カウンセラーになりたい!」って思った時に、どうやって勉強するんだ? 人間的に深くなれる勉強なんてあるのか? かなり疑問に思ったので、いつものようにググる。

どうやったら人間的に深くなれるか?の答えは今でも全く分かりません。

ただし、人間的に深い人になることができれば、たとえ心理学のことを知らなかったとしても、心理学的に見て正しい行動を自然ととれるようになるのではないかと、今の自分は思っています。

心理学って人間が作ったもので、あくまで理論は後付け、という面もあるはずなので、当たり前の話かもしれませんが。

でもその考えが、心理学を軽視することにつながってはいけません。心理学からしか学べないこともたくさんあります。これからも勉強は続けていきます。

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