卒業研究に対する幻想の崩壊
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4月から卒業研究を始めて、約3ヶ月が経ちました。ここまでやってきて思ったのですが、研究ってこんなに地味なんですねー(笑)
やろうと思えば、先輩が使った実験装置をちょこっといじればいいので、実験を3日で終わらせることは出来ます。計算も30分くらいでコンピュータが自動でやってくれますし、その結果をみて分かることは山ほどあるので、時間さえあれば考察なんていくらでも書けます。
じゃあ普段は何をしているかというと、「この実験条件でいいの?」という検討です。
ちょっと具体的に書きます。
僕の班が使う実験装置はこんな感じ。
これに液体を流して写真を撮ると、こうなります。
この写真をもとに、コンピューターが「チューブの中の液体はどのように流れているか?」を計算してくれます。その結果から、血管中を血液がどのように流れているかが分かる、という内容です。
これだけ聞くと、やることは簡単そうなんですけどねぇ。
では、この写真を”ちゃんと”撮影するためには、何を検討すべきだと思いますか?
シンキングタイム、スタート!
・・・
僕たちが実際に検討しているのは、以下の通り(ほんの一部)
- 壁がどこにあるかという判断
- 蛍光粒子の数(濃度)
- 写真の解像度や撮影枚数
- カメラの露光時間
- 壁にかかる力(壁せん断応力)の算出方法
- 蛍光粒子にもいろんな明るさがある→これ以上の明るさは認識する、これ以下の明るさは認識しない、という線引きの判断
- 管のどこにピントを合わせるか
などなど。
挙げるとキリがないので、1~3だけざっくり説明します。
1. 壁がどこにあるかという判断
写真から壁の位置はだいたい分かりますが、「だいたい」ではダメなのです。この実験は血管の破れやすさと関連があるので、壁の位置が1mm違うだけで結果が全然変わってきてしまうのです。 もっと言えば、この壁は本物の血管に近づけるために、プニプニ動くようになっています。つまり、壁が直線になっているとは限らないので、その位置を特定するのは難しいです。
2. 蛍光粒子の数(濃度)
この実験では写真を連続撮影して蛍光粒子の動きを追うことで、液体の流れを計算しています(PIV解析という)。なので、蛍光粒子が少なすぎると判断材料が減ってしまい、多すぎると写真が真っ白で塗りつぶされてしまいます。「だいたいこれくらいの量がちょうどいい」というのは今までの経験からわかっていますが、もちろんそれは論理的でないので、工学的根拠に基づいて求めないといけません。
3. 写真の解像度や撮影枚数
写真の解像度や撮影枚数は、多ければいいというものではありません。実験用のカメラは値段がメチャクチャ高いからです。
すでに持っているハイスピードカメラを使うに越したことはないので、このカメラで済むように他の実験条件を工夫します。それがダメならもっと性能のいいカメラをレンタルすることになりますが、そのためにはどのくらいの解像度が必要なのかなどを正確に把握している必要があります。
今は撮影についてだけの検討課題を挙げましたが、それ以外にも、「”血管に見立てて”って言ってるけど、これで本当に見立てられてるの?」とか「流れの解析は何ピクセル単位でするの?」など、山のように調べることがあるわけです。
そのためにはカメラの仕様を調べたり、文献を読んで「僕たちの実験は科学的に正しい」って証拠を探したり、いろいろやることがあるのです。
「全部コンピューターに任せればいいじゃん」って思うかもしれませんが、じゃあそのコンピューターはどうやって計算してるかという仕組みについて知らないといけないので、結局は自分で調べないといけないです。
実験装置だけ見てるとカッコいいんですけど、その裏では地道な積み重ねが必要なんですね。
「研究ってこんな風に進むんだ」ということが分かり、いい勉強になっています。