南三陸での原体験② まかない丼(味噌汁付き 900円)との出会い

更新: 2023-07-15  投稿:
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前回の記事はこちら。

南三陸での原体験① スポーティーお坊さんとの出会い
2015-07-20

ボランティアで疲れた後は、夕飯を食べに気仙沼へ行きました。徹底的に地元の良質な食べ物にこだわった店だらけ。しかもどこも安くて、東京のおよそ半分。1000円で十分お腹いっぱいになれます。

気仙沼横丁
▲気仙沼横丁

たくさんある店の中から、地元の人に紹介してもらったまぐろ亭という店へ足を運ぶことに。

店主の人にオススメされて、まかない丼というものを選びました。

まかない丼
▲まかない丼

僕は当時イクラが嫌いでした。嫌いというか、子供の時に食べたら海っぽい感じになじむことができず、それ以来めっきりといった感じです。せっかくの機会なので挑戦してみることにしました。
結果は大満足! まずイクラの食感にびっくりしました。皮の部分は固すぎずは柔らかすぎず、いい具合の感触。イクラを今まで全然食べ来なかった自分でも「これは質がいいイクラだ」と分かりました。味も濃厚だけどイヤらしさがなく、ご飯がすすみます。「イクラがこんなにおいしいものだったとは…」と今まで食わず嫌いしてきたことを後悔しました。

ここで大将がまかない丼について話をしてくれました。

「イクラっていうのはおいしい”噛み方”があるんですよ。2~3粒を舌の上に乗せて、口の天井でピッって潰すんです。イクラは食感が大事。一番その感触を感じられるのが舌なんですね。そして、中からあふれてきた液が全部舌の上に乗るから、じっくり味わうことができます。品評会ではみなさんこのように食べます。固めがいいか柔らかめがいいかは好みによりますが、今日のは中間くらいです」

おー! さっきは無意識に噛んでいたから自分がどうやって食べたか全く覚えてないけど、試してみると確かにこの噛み方が一番イクラのおいしさを味わい尽くせる気がする!

少し間を空けて、再び大将が話をしてくれました。

「みなさんが食べていらっしゃるのはまかない丼っていいますけど、誰のまかないかというと、実は漁師さんのなんです。遠洋漁業の漁師さんの。
遠洋漁業と言うのは数か月間、陸には帰ってきません。だから取った魚を食べるのですが、さすがに毎日なので飽きてしまいます。そこで少しでも味を変化させるために、薬味を使うんです。でも薬味は生ものですので、当然最初の数週間しかもちません。だから皆さんが今お食べになっているような薬味付きのまかない丼というのは、漁師さんにとっては非常に貴重なものなんです。
ちなみに、『味がついているので醤油はつけなくていい』と申し上げましたが、それも漁師さんがそうするからです。どういうことかと言うと、船と言うのは揺れますよね。卓上で醤油を使うとこぼれたり倒したりしてしまうんです。だから醤油が無くても食べられるようになっているんです」

面白い! どこがどう「まかない丼」なのかがよく分かりましたし、たったこれだけの料理でも、実はそういった工夫があるのですね。このまかない丼が本来はどのような状況で食べられているのかがよく分かりましたし、頭の中でくっきりと映像が浮かび上がってきました。

食べ物の面白さが知るきっかけになったエピソードでした。
単に目の前にある料理がおいしいというだけで終わってもいいのですが、料理の”背景”を知ることによって、そのおいしさに奥行きが生まれます。

たった一杯の丼ぶりを起点にして、おいしい食べ方から捌いた人の気持ち、そしてこの料理が生まれた文化にまで広がっている。それらが全てが、まるで机の上いっぱいにばらまいたビーズを、腕をいっぱいに広げてガーッと集めるみたいに、この丼に集約されている。

食べ物ってこんなに面白いんだ、と思った瞬間でした。

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